私は10年来、教育係として医局内部に関するさまざまな事情についての仕事を取り計らってきた。その中で最も大きな仕事は、新入医局員の獲得、ならびに、初夏に行う医局員アンケートを礎にした来年度の人事調整である。ここ数年の医局員の希望研修施設の顕著な傾向として、在京あるいは東京周辺の病院研修希望の偏在化である。家庭の事情であるのか、あるいは東京から離れたくないのか、詳細に関しては理由を聞きとっていないが、もし理由が地理的な問題だけとすれば憂慮すべき状況とも考えている。
高度な医師としての教育を25年間受けてきて医師になり疲弊してしまっているのであろうか。内向的になり変化を嫌う風潮は、せっかく一度だけの人生、本当にもったいない文化の象徴ともいえる。
私は20年前に英国に留学した。移植外科を目指して札幌から出てきた私にとって一番眼から鱗であったのは血液型不適合移植であった。不適合輸血で人が死亡するのに、血液型を超えた固形臓器がなぜ機能を始めるのか、20年経過した今も免疫学的なメカニズムは明らかになってないが、これこそが英国留学の端緒になった。
若い医局員に是非言いたいのは、さまざまな本を読んで何にでも興味を持ってほしいということである。先生方が医師を目指して夢中で勉強した受験戦争のとき思っていたのは、泌尿器科の専攻医試験に通るためではないと思う。夢を持ち続けてほしい。折角女子医大の泌尿器科に入ってきたのだから、漫然と患者管理、手術を行うのでなく1例ずつを大事に観察することでここでしか学べないものを早く見つけ、深く興味を持ってほしい。もし先生方の脳に信号の入るものがあれば、手弁当でも留学し、地球の裏側を見てきてほしい。留学での生活は先生方自身のみならず、ご家族にとってもかけがえのない思い出になることは固く約束できる。
来年度も4人の新人を迎えることになった。そして再来年度2017年度は新たな専攻医制度の始まりである。現在女子医大泌尿器科の専攻医プログラムを機構に提出し、承認までの待機をしている。当科は経験手術症例が多いために、5年間の専攻医取得に必要な症例数は数年で獲得できる。残りの時間は友人との交流も結構であるが、素晴らしい頭脳があるのだから、ぜひ内向的にならず、国内外留学問わず多様性のある研修、いや一生を送ってほしいと考えている。 |