東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 設立趣意書会則
東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 The Society of Urological Disease at Tokyo Women's Medical University
■ 2009年度年報
ホーム1.はじめに2.医局構成・新入局員紹介3.東京女子医科大学腎センター泌尿器科および関連病院入院・外来・手術統計4.東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2010年度の目標5.関連および協力施設 活動報告・2010年度の目標6.業績目録7.あとがき

4. 東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2010年度の目標 >> 腎不全腎移植班

腎不全腎移植班 活動報告・2010年度の目標

昨年1年間の移植総数は75症例と1昨年とまったくの同数でありました。学会による手術の停止などを考慮すると、女子医大本院での移植総数は現時点での週2回の手術枠からこの数が限界と思われます。そのために、関連病院でも4月より移植の数を可能な限り増やし患者の待機時間の減少に努力しています。昨年4月より戸田中央病院では月に2回のペースに移植を増やし、また大久保病院でも新たに移植外科としての医師派遣とともに月に1回の移植をこなしています。

昨年は7月に脳死法案が成立しその意味において日本の移植医療の幕開けの年ということができます。この法律は1年間の準備期間を経て平成22年7月より法施行されます。医療技術的には何ら遜色ない(欧米よりむしろ優れている)成績を残している日本の移植医療が抱えている問題点を海外における移植との比較を通じて論じてみたいと思います。

各国の移植状況

  日本 台湾 アメリカ フランス ヨーロッパ
国内人口 1.28億人 0.22億人 2.98億人 0.60億人
移植登録者総数 11724 5028 73343 6491 11308
献腎移植数 187 200 10489 2911* 3703
平均待機月数 160 60 41.6 no data 42

2007年における各国の移植登録者数および2007年度1年間の移植総数、2007年における待機月数、
*フランスのみ生体腎移植数を含む、それ以外は献腎移植のみの総数を記載

世界の脳死下臓器提供を比較してみると人口百万人当たりで15人以上の脳死下臓器提供が行われている国には、スペイン、オーストラリア、ベルギー、アメリカ、フランスなどが含まれます。これらの国は表のごとく、いずれの国も「Presumed consent」すなわち「臓器提供をしない意思表示」を行う国々です。一方、人口百万人当たりで5人以上15人以下の脳死下臓器提供が行われている国は、イギリス、オランダ、ドイツ、などが含まれ、これらの国は「臓器提供をする意思表示」を行う国です。ちなみにわが国は人口百万人当たり0.5人とトルコやペルーよりもなお少ないことは驚きといえます。

このように臓器提供の方式は、臓器提供を「希望する」という明確な意思表示がなされた場合のみを対象とするOpting-in方式と、臓器提供を「希望しない」という明確な意思表示が存在しない限り「提供希望」としてあつかうPresumed consent方式に大別されます。後者が前者に比較して移植用臓器を増やすことが知られており、最近ではベルギー、イタリアなどPresumed in方式に移行する国が増えてきています。

臓器移植システムの問題点−日本臓器移植ネットワークを含めた問題点−
日本人の臓器提供意思カード所持率は全国平均で約9%と言われています。さらに心臓死の場合ですら死後にメスを入れられることを嫌う傾向があり田舎にいくほど強いようです。一方、欧米の特に、クリスチャンは積極的に臓器提供に協力してくれるようでありますが、その背景には魂は死後天に昇り、身体はあくまでも魂が現世で存在していた仮の場所であり、したがって、死後その臓器が他の人を救うことができるのであれば、喜んで提供したい、との考え方があるようです。若いころよりそのような教育もなされているようであります。日本でも若者のものの考え方が現実的となり移植医療への理解も日に日に高まってきているように思えますが、現状を見るにつけ十分であるとは決して言えません。このような日本人の持つ独特の宗教心や死生観からドナー数が少ないこととして説明する機会が多いですが、そればかりではないと考えています。移植先進国の辿ってきた道を学んでみたいと思います。

アメリカにおいては、国家の政策として、脳死下臓器提供を推進する方策がとられてきました。1つは1998年にクリントン大統領が発令したものでアメリカのすべての病院は臓器移植推進のために地域の臓器バンクとの合意書をかわすことを義務づけられました。すなわち脳死患者の発生あるいは発生の疑いが予想される場合は臓器バンクに連絡を取ることを義務づけられ、順守しない場合は病院に対する公的保険の支払が保留されます。またその後ブッシュ大統領が発令した連邦政策プランでは、ドナーファミリーに対する税金控除を含む約150億円の財政投資予算が計上されました。このような結果としてアメリカでは以下のような移植システムが出来上がっています。すなわち脳死患者の発生はすぐに臓器バンクに医療従事者から連絡され、臓器バンクが脳死判定を行う神経内科医あるいは脳神経外科医の確保から実際の判定までの全過程をサポートします。そして脳死と判定されれば、臓器バンクが主治医となり、その後の管理、対応、コーディネートのすべてをマネージします。さらには、移植医側の負担を軽減するために手術器具の準備、手術室使用料、医師看護師など医療従事者人件費用のすべてを負担します。このシステムが稼働することによって、脳死発生病院、その後の移植医療に携わる医師、看護師の負担が大幅に軽減され、残った時間でドナーアクションの増加に寄与することができると考えられます。ここ数年急速にドナー数が急増してきた国としてスペインがあげられますが、その理由には国立臓器移植機関の設立があります。公的機関の設立によってコーディネーションシステムの確立、コーディネーターの教育、経済的な支援などが可能となり、臓器提供側および移植医療側それをつなぐコーディネーターが現場で心地よく働くことができるようになったことがスペインにおける移植医療の急激な発展に関係しているようであります。

2009年7月13日に成立をみたA案が今後ドナー数の増加にプラスに働くことは間違いないと思われます。その一方であえて移植医の立場として強調しておきたいのは、移植医療の労働環境の劣悪さです。法的整備(移植法案の改正)はもちろんことを進めていく上で重要ではあることに違いありませんが、車の両輪のもう1つとして現場の移植医療者が心地よく労働できるようなシステム作りは不可欠であります。アメリカやスペインの例からもわかるように移植医療の現場をマネージする臓器移植ネットワークの責任は重大です。定額給付金もよいですが、国からの財政投資によって一刻も早く、日本臓器移植ネットワークをもっと公的かつ強大に活動できる機関として安定させていただきたいと願ってやみません。そしてそれこそが日本の移植医療が長い暗黒トンネルを抜けるために必要不可欠な対策であると信じていますし、逆にやらなければいつまでたっても日本は移植後進国という不名誉なレッテルを貼られたままだと思います。

石田 英樹

[ 前のページへ戻る ] [ ページトップへ戻る ]

Copyright (C) The Society of Urological Disease at TWMU All Rights Reserved.