進行腎癌患者の予後改善を目標に、新しい免疫療法の開発を目指した「がんトランスレーショナル・リサーチ」も平成20年度で無事終了しました。平成16年のスタート当初は11課題ありましたが、中間審査などで最終的には5課題に絞られました。5年の研究期間の内、2年間の登録期間で11人の患者さんに参加して頂きました。実際には20名以上の患者さんから臨床試験参加の申し出がありましたが、スクリーニングの段階で希望に沿えませんでした。しかし、患者さんの免疫療法に対する関心の高さや期待は十分にわかりました。
ここ数年間で腎癌の治療に大きなパラダイムシフトがあり、一気に免疫療法から分子標的薬に治療方法が移ったのはご存じの事と思います。そしてsorafenib, sunitinibの他にもtemsirolimus, axitinib, pazopanibもそのうちに使用できるようになります。しかし最近は費用対効果も論ぜられ、英国ではsorafenibとsunitinibの費用対効果が悪いと言うことで保険医療の取り消しとなりました。分子標的薬も生存競争が激しくなると思われます。
「がんトラ」ではPhase I & IIa試験なので、主エンドポイントは安全性と有害事象の頻度・種類の検討で、副エンドポイントは臨床効果です。有害事象は重篤なものはなく、安全に行えることがわかりました。また、先端医療振興財団で解析してもらった最良総合効果は、CR1例、SD5例、PD5例でした。観察期間が短いのですが、無増悪生存期間の中央値も25ヶ月を超えています。Phase I & IIa試験としては良い結果で、次のステージへ進むことができます。
昨年厚生労働省、文部科学省、経済産業省と内閣府の合同事業である先端医療開発特区(スーパー特区)の課題募集があり、124件の応募の中からγδ型T細胞療法も京都大学探索医療センターとの共同研究で採択されました。今年はなるべく早い時期にγδ型T細胞療法で厚労省の高度医療の承認をとり、「がんトラ」の解析結果を基にした改変プロトコルで臨床試験を進めたいと思います。また、スーパー特区では腎癌以外にも尿路上皮癌、前立腺癌のγδ型T細胞療法も申請しています。こちらも臨床試験の準備を始めたいと思います。
日本の医療政策の中でも、今後はbasic scienceからclinical scienceにもっと投資する動きになってきています。それに伴い、質の高い臨床試験や臨床研究と被験者保護の担保のために今年の4月から臨床試験のガイドラインがかなり厳しくなります。厳しくなると言うより、やっと欧米の臨床試験のシステムに追い付いてきた程度です。今までは医師法の範囲内であればお咎めが無かったことも、薬事法、各種ガイドライン、知財戦略や利益相反などの問題が出てきます。一つずつ問題をクリアしてγδ型T細胞療法を標準治療・保険治療にしたいと思います。 |