東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 設立趣意書会則
東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 The Society of Urological Disease at Tokyo Women's Medical University
■ 2008年度年報
ホーム1.はじめに2.医局構成・新入局員紹介3.東京女子医科大学腎センター泌尿器科および関連病院入院・外来・手術統計4.東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2009年度の目標5.関連および協力施設 活動報告・2009年度の目標6.業績目録7.あとがき

4. 東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2009年度の目標 >> 前立腺腫瘍センター

前立腺腫瘍センター 活動報告

前立腺腫瘍センターは2006年秋に活動をはじめました。当初、手術療法としては腹腔鏡下前立腺全摘除術を始めること。放射線療法としては小線源永久挿入術、および高線量率組織内照射を始めることを当初の課題として発足しました。その後、早期前立腺癌に対する治療選択肢を豊富に揃えたことを背景として、提示する治療方法を全例放射線科と泌尿器科の合同カンファレンスで決定するスタイルがはじまりました。カンファレンスでの検討症例ですが、内訳は女子医大、戸田中央総合病院の生検陽性症例、他院からの紹介症例ですが、2007年では215例であったに対し2008年には307例と5割増加しています。だいたいこれらの2割が手術へ、4割が放射線療法へ、残りが内分泌療法、無治療経過観察などに振り分けられています。放射線療法は手術療法よりも適応がステージの点からも、年齢の点からもひろいので、両方の治療法を完備している施設ではだいたいこれくらいの割合です。2005年当時では、2割が手術療法、2割が放射線療法、残る6割が内分泌療法でしたので、その治療選択も様変わりしてきています。

手術療法ですが、2007年夏には腹腔鏡下前立腺全摘除術の施設認定を取得し、2008年は豊富に腹腔鏡下前立腺全摘除術を施行した年となりました。前立腺全摘の総数は56例と前年の48例からは2割増加ですが、腹腔鏡下前立腺全摘除術としては50例施行しており、前年の18例からは3倍増加しています。毎週施行し、後半には週2例ずつ施行しました。2008年は術者は田邉教授のみでしたので、教授が不在時は施行できない週がありましたが、来年からは独立した術者が育てばより多くの症例が施行可能になります。治療成績では、手術時間は4時間弱になってきており、出血量は100ml前後で、自己血採取は2008年6月からBPH の大きい症例、ヘパリン化する症例など一部の症例のみでおこなうこととなり、患者さんへの負担の軽減、業務の改善につながっています。出血量が少ないので、ヘパリン化が必要な症例も通常どうり施行が可能であり、2008年には4例施行しています。同様にABマイナス、Bマイナスなどの血液型症例にも同様に施行しています。術後ドレーンについても出血量も少量なので、17例で留置せずに終了しています。問題ないのですが、術翌日に38度の発熱を伴うことがおおく、現在では1日のみ留置しています。これは腎摘後のドレーン非留置例ではないので、術中に流出している尿の影響なのかと考えています。術後の経過ですが、術翌日より離床、昼から食事再開。4日目にバルン抜去、5日目退院です。また、尿禁性については1ヶ月で6割、3ヶ月で8割、12ヶ月で10割の禁性を得ております。勃起能ですが、変側温存で3割、両側温存で5割の維持です。癌制御ですが、2008年4月より全摘病理は慈恵医科大学の鷹橋先生にみていただきマッピングもお願いしています。遠位端、近位端を放射状に切片を作成するので、断端の陽性部位が何時方向かがわかり、手術にフィードバックしやすいようになっています。鷹橋先生に評価していただいた当初の断端陽性率はpT2で3割、pT3aで5割でしたが、膀胱頸部の切除、尖部の処理の向上により明らかな改善ができています。
放射線療法では、IMRTが2008年春より保険収載されより患者さんに使いやすくなってきています。場所あわせが時間がかかるようですが、件数の増加とともに放射線技師も慣れてきているようで早くできるようになっています。また、組織内照射では、シード永久挿入術は昨年24例でしたが、今年は34例に施行しました。高線量率組織内照射(HDR)は外照射45Gy/15回後に施行していますが、昨年20例に対し2008年あ34例施行しています。当院のHDRは1日のみの午前、午後の1回9Gyを1日に2回照射しています。2回目に位置を再度TRUS下に修正できるのが特徴で、秋元准教授が群馬でしていた時よりも有害事象は少なくなっているようです。また、中リスク前立腺癌に対する内分泌療法併用のシード永久挿入術の多施設共同研究を施行しており、現在の登録数は8例で、慈恵医大に次いで2番目に多い症例を登録しています。
内分泌療法では、stage IIまではLH-RHアゴニストの単独治療、それ以上はMABを施行しています。
ドセタキセルは、女子医大がんセンターとして設立された外来科学療法室で施行しています。80歳代の患者さんにも施行可能であり、来年度は関連病院でデータをまとめていければと考えております。
学外活動としては、新宿区、中野区の医師会での講演、市民公開講座などで啓蒙をはかっております。

最後になりましたが、紹介患者さんの多くが成人医学センターをはじめとした関連施設の先生方からご紹介をいただいています。なるべく返信を多くし、フィードバックができればと思いますし、前立腺癌治療の牙城となるよう精進してまいりますので、今後とも宜しくお願いいたします。
橋本恭伸

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前立腺腫瘍センター 2009年度の目標

 前立腺腫瘍センターは設立より2年半を迎えました。2009年2月末までに前立腺癌の最適治療を提供することを目的として行ってきた放射線科との合同カンファレンスで検討した症例は678例を数えます。ここでは今後の課題・目標に関して記したいと思います。

 2009年度目標
(1)進行前立腺癌に対する治療法の確立
(2)地域連携(病診連携)の推進
(3)病理組織の再検討
(4)現加療中症例の再検討

(1)進行前立腺癌に対する治療法の確立
平成20年8月にドセタキセルが前立腺癌に対し追加承認され保険適応となりました。多国籍第III相試験TAX 327及びSWOG 99-16によって示された様に、ドセタキセルは、進行したホルモン不応性前立腺癌(HRPC)又は転移性HRPCに対して延命効果が実証された最初の化学療法剤です。この2 本の試験及び他の試験により、現在、米国、カナダ、及び欧州では、ドセタキセルベースの化学療法は転移性HRPC 治療の標準療法と考えられています。
日本人においては2005年よりドセタキセルとPSL併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした、非盲検試験非対象第II相試験が国内28施設で実施され、これらの結果をふまえ今回の承認に至りました。しかしながら、これらはすべて有転移症例が対象となっており、とくに国内臨床試験に関しては臨床上多く経験するPSA値上昇による再発症例や75歳以上の症例での効果・安全性が示されていません。また、長期投与(10コース以上)に対する安全性を示す結果も示唆されていません。こうした経緯から、現在本院ではホルモン不応性前立腺癌症例を対象に国内第U相臨床試験の投与方法を用いてPSA再発症例や75歳以上の症例、長期投与の効果・安全性を検証する目的で臨床試験が準備・進行中です。(プロトコール、対象症例等の詳細は順次ご説明いたします。)諸関連施設の先生方には御協力をお願いすることと存じますが何卒宜しくお願い申し上げます。
この臨床試験をはじめとして進行前立腺癌に対する治療strategy(化学療法をいつ、どのタイミングで行うのか)の確立を目指したいと考えています。

(2)地域連携(病診連携)の推進
本年1月に新宿・中野・杉並地区の主に開業医を中心とした先生方と当科との交流会が開催され、当科の特徴や診療内容に関し知って頂くことが出来たと思います。新宿周辺ではすでに東京厚生年金病院などの地域基幹病院と新宿区医師会、新宿泌尿器科医会とが中心になり「前立腺がん検査連携パス」が運用されています。これはPSA値上昇のためかかりつけ医から専門科に紹介された患者が、精密検査(前立腺生検)でがん陰性であった場合、紹介元のかかりつけ医に戻って、PSAの経過観察を行なう連携システムです。新宿・中野・杉並地区だけでもPSA grey zone患者は約2万人と推定され今後こうした連携は不可欠となると考えられます。当科としてもこうした流れに遅れることなく、更に、安定した術後患者や内分泌療法中の患者などをかかりつけ医で経過観察して頂けるような連携システムの構築が可能になればと考えています。

(3)病理組織の再検討
生検検体と手術検体との病理組織診断の乖離は依然、大きな問題です。本院では手術症例は全て病院病理の診断に加え、慈恵医大の鷹橋先生に生検検体とともに診断して頂いています。手術検体のmapping結果も返して頂いており、手術手技の評価とともに生検における検出度を評価しています。今後病理組織を画像診断とともに再検討をおこない、生検における診断精度の向上(特に尖部腹側腫瘍)、手術手技の改善を目指したいと考えています。

(4)現加療中症例の再検討
2005年度には実に新規前立腺癌症例の53%にホルモン療法が導入されていました。2006年9月より当センター設立に伴い放射線科との合同カンファレンスを開始し、最適と思われる治療を推奨治療としております。その結果2008年の治療選択はホルモン療法21%、放射線療法33%、手術療法30%、その他(待機療法、重粒子線等)14%と大きく変化がみられます。合同カンファ導入以前に治療開始されている症例に関して、特に近年治療選択が可能となった組織内照射やIMRTの良い適応と考えられる症例に関しては積極的にカンファレンスにて再検討して行きたいと考えています。

最後に、本年4月より橋本講師の留学に伴い前立腺腫瘍センターの諸業務を飯塚が引き継がせて頂くこととなりました。未熟ゆえ多岐に渡りご迷惑をおかけすることと存じますが、諸先生方の御指導御鞭撻を賜りたく何卒宜しくお願い申し上げます。
飯塚淳平

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