当院は「尿蛋白から腎移植まで」をモットーに、慢性腎臓病保存期患者から1000人以上の血液透析患者、100人の腹膜透析患者、60人以上の腎移植患者の診療に当たっております。今年度の手術件数の総数は1378例でした。ここ数年はコンスタントに1300例前後の症例数を維持できています。腎移植件数は去年と同等で4例でした。赴任した当初は糸結びや運針でさえ未熟でしたが、水口先生よりマンツーマンの御指導を頂き血管外科に関して十二分に学ぶことができました。また、腎移植レシピエントの執刀の機会も頂き大いに成長を実感できた2年間でした。当院で培った知識と技術を今後の診療に生かしていければと思っております。
臨床だけではなく研究にも注力しているのが当院の特徴です。特に今年度は大きなニュースが2つあり、透析療法へのAI(人工知能)応用に関する共同研究と血中蛋白質AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)を活用した慢性腎臓病への治療応用に関する共同研究の開始です。特に後者は興味深く、AIMとは体内の問題の箇所を知らせる所謂「目印」であり、そこにマクロファージを誘導し貪食作用を活発化させて体内に蓄積した老廃物の除去を促す役割があることがわかっています。例えば、ネコのほとんどは5歳頃に腎障害を起こし腎不全で15歳頃に亡くなると言われています。急性腎障害が起こると死んだ尿細管上皮細胞が尿細管中に閉塞し、閉塞が改善しなければ腎障害が非可逆的となり腎不全となります。ヒトやマウスでは血中のAIMが尿中に移行し、尿細管内で死んだ細胞に付着して上皮細胞やマクロファージが掃除することで閉塞が改善し腎障害は治癒しますが、ネコではこのAIMが遺伝的に機能せず死細胞が尿細管に蓄積し腎不全へと進行します。尿毒症症状で衰弱した腎不全状態のネコに機能するよう操作したAIMを投与すると、腎機能が改善して尿毒症症状が消失し寿命が伸びたとの報告があります。しかもその投与期間は1ヶ月に1回程度であり、これまでの透析療法が全く変わる可能性を秘めています。
いよいよ新病院への着工も始まっており2021年7月から新病院に移行する予定となっています。最後になりましたが川島会長、水口理事長をはじめ病院スタッフにはいつも助けて頂き本当にありがとうございました。川島病院の今後の更なる発展を心より祈っております。
2020年の目標
- 診療実績(手術件数、透析患者数、外来患者数)の拡大
- 腎移植症例の増加
- 論文作成
阪野太郎
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