2018年の小児・形成泌尿器科部門における明るいニュースは、5月に成育医療センターから鈴木万里先生が戻ってこられたことでした。私自身がイギリスの小児病院へ留学する前に毎週月曜日に女子医大へ通っていたのですが、その時に見た万里先生の繊細な技術と的確で熱い指導は今でも忘れられません。あれからもう10年になりますが旅立つ前に万里先生から手渡されたテノトミーは今でも宝として手元にあります。
そもそも女子医大の小児泌尿器科は東間先生から山崎先生、家後先生に受け継がれこれまでの長い歴史を刻んできたわけですが、その歴史が途絶えてしまってはならないと言う思いから2016年に私が家後先生のあとを継がせていただきました。腫瘍班のメンバーや腎小児の先生方の力強いサポートのもと、毎年起こるいろいろな事件や出来事に立ち向かい充実した日々を過ごしてきました。指導的立場のスタッフもそろったのでこれからは後進の育成を見据えた小児・形成泌尿器科部門の体制を作って行こうと画策していましたが、10月に止む無く自分が退職することになってしまいました。2019年は小児・形成泌尿器科部門は自転車操業となってしまいますが、患者さんがいる限り適切な診療、手術を提供していきたいと考えております。次の世代の誰かが「小児泌尿器科をやりたいです!」と手を挙げてくれるまで当面は私が万里先生の面倒になっていようと思う今日この頃です。
ところで2018年の手術件数は111件、そのうち小児が72件、16歳以上が39件でした(表1)。小児では例年と同じく結石が多く特に就学前(1-5歳)の症例が22例中10例と若年化がさらに進んでいる印象でした。成人の結石症例は重症心身障害者で尿道狭窄を合併し膀胱結石による尿路感染で長年苦労してきた患者さんに対する経膀胱ろう的膀胱結石破砕術がありました。UCN(尿管膀胱新吻合術)はVURの他、年長児や成人期に見つかったUVJO(巨大尿管症)が多く何れも尿管形成を必要としました。移植腎VURに対するDeflux術は2016年から12例に対して行いUCNが必要になった症例が4例でした (33.3%)。万里先生の帰りを待ち構えて施行した膀胱拡大術(小腸利用)+新導尿路造設(Monti式)+洗腸路造設術(MACE)では患者のQOLが劇的に改善し機能再建外科冥利に尽きる手術でした。小児・形成泌尿器科部門では腎機能温存が最大の目的であると同時に患者や家族のQOLを手術によっていかに改善できるか、あらゆる方法を考え抜くところにやりがいがあると考えます。この世界に興味を持ってくれる若者を歓迎します。UPJO(腎盂尿管移行部通過障害)に対する腹腔鏡下腎盂形成術はコンスタントに行っていますが未だロボット手術の導入には至っていません。導入へ向けてda Vinciのごとく遠隔操作で準備を進めていきたいと思います。新しい試みとして、polysurgeryのため開腹手術が困難な膀胱結腸ろう症例に対して倫理委員会承認のもとDeflux注入術を行いました。症状の軽減に有効だったので今後は膀胱結腸ろう治療の選択肢の一つとなり得ると考えます。
表1 2018年 小児・形成泌尿器科部門 手術件数
|
小児 |
16-19歳 |
成人 |
計 |
全身麻酔症例(件数) |
72 |
7 |
32 |
111 |
術式 |
小児 |
16-19歳 |
成人 |
計 |
結石関連(TUL、PNL) |
22 |
1 |
2 |
25 |
環状切開術 | 12 |
1 |
0 |
13 |
膀胱尿管新吻合術(移植腎) |
7(1) |
0 |
2(1) |
11 |
腎盂形成術(腹腔鏡) |
2 |
0 |
(7) |
9 |
Deflux 注入術(移植腎) |
1(1) |
1 |
4(1) |
8 |
尿道狭窄(PUV・リング狭窄)手術 |
3(1) |
0 |
3 |
7 |
停留精巣固定術
| 6 |
0 |
0 |
6 |
陰嚢水腫・鼡径ヘルニア根治術 |
5 |
0 |
0 |
5 |
外尿道口形成術 |
3 |
0 |
2 |
5 |
急性陰嚢症(精巣摘出術) |
1(1) |
0 |
2(1*) |
4 |
膀胱鏡観察(Mitroffanoff 鏡) |
2 |
0 |
(1) |
3 |
腹腔鏡下巨大腎嚢胞切除術 |
0 |
0 |
1 |
1 |
尿管鏡観察 |
1 |
0 |
0 |
1 |
精巣静脈瘤手術 |
0 |
0 |
1 |
1 |
膀胱皮膚ろう造設術 |
0 |
1 |
0 |
1 |
尿道皮膚ろう造設術 |
0 |
0 |
1 |
1 |
尿道脱修復術 |
0 |
1 |
0 |
1 |
尿道形成術(端々吻合) |
0 |
0 |
1 |
1 |
尿道憩室摘出術 |
0 |
0 |
1 |
1 |
包皮腫瘍切除術 |
1 |
0 |
0 |
1 |
膀胱結腸ろうDeflux注入術 |
0 |
0 |
1 |
1 |
膀胱拡大術(小腸利用)+新導尿路造設(Monti式)+洗腸路造設術 |
0 |
1 |
0 |
1 |
カテーテル交換・抜去・留置 |
8 |
0 |
2 |
10 |
迫田晃子
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