東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 設立趣意書会則
東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 The Society of Urological Disease at Tokyo Women's Medical University
■ 2011年度年報
ホーム1.はじめに2.医局構成・新入局員紹介3.東京女子医科大学腎センター泌尿器科および関連病院入院・外来・手術統計4.東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2012年度の目標5.関連および協力施設 活動報告・2012年度の目標6.業績目録7.あとがき

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腎癌研究 活動報告・2012年度の目標

早いもので、女子医大発の第3項先進医療(高度医療)に承認された癌免疫療法も患者募集から1年経ちました。前回の“腎癌研究”では、高度医療承認までの経過をご報告させて頂きました。今回は、実際に臨床試験を開始して気付いたことを書きます。この臨床試験は、転移再発を有する腎がん患者さんに自己活性化γδ型T細胞とゾレドロン酸、インターロイキン2を投与する第II相試験です。癌に対する免疫療法は、進行前立腺癌に対するsipuleucel-T(樹状細胞を用いた細胞療法)が米国FDAで承認され、本邦でも膀胱癌に対するペプチド療法が企業治験として開始されて着実に進んでいます。一方、巷のクリニックで癌免疫療法と称して、高額な自由診療としておこなっていて玉石混交の現状です。しかし、最近では国立国際医療研究センターでも自由診療部門で癌免疫細胞療法を始めるなど、新しい動きもでてきております(近隣の医療機関には診療開始のお知らせが届いたそうですが、何故か女子医大には来ていません)。

さて、実際に臨床試験を始めようとしても被験者がいないと始められません。厚労省との相談では、治験とは異なり新聞広告などで患者さんを募集することは、薬事法に抵触するのでできないそうです。ホームページへの掲載や患者募集のポスターやパンフレットの作成・配布は可能とのことでした。HPへの記載は、患者さんが自分で探してHPを見つけるので、不特定多数を対象とした募集では無いのでOKだそうです。また、ポスターは自院への掲示は問題無いそうですが、他院で掲示してもらう時は、「詳細は○○○まで」と○○○はその病院で記入してもらうなど、ちょっと?な指示もありました。今回は、女子医大病院HPで先進医療のページ、女子医大病院がんセンターのページと泌尿器科のHPに案内を載せてもらいました。そうすると次々とメールや患者相談室を経由して問い合わせが来ますが、募集する患者さんの適応を記載しているのにもかかわらず、99%は適応外です。しかし、少しの可能性に期待して連絡してくるので、こちらもいい加減な話はできないので、なんだか無料の電話セカンドオピニオンのようで、時間と体力を消耗しました。メールは文面が残ってしまうので要注意です。パンフレットとポスターは関東近郊の泌尿器科のある総合病院を約100施設ピックアップして、ダイレクトメールを送りました。最初は泌尿器科御中で送ったら問い合わせは1件も無く、2回目は泌尿器科部長名を調べて、部長名で送ったら何件か問い合わせをいただきました。こういう活動もして、どの方法が有効であったとか、患者からの問い合わせはどんな内容が多かったかなどを分析して、文科省(研究費を頂いているので)への研究実績報告書へ記載しないといけません。

昨年は、重篤な有害事象が発生して、これの対応もなかなか大変でした。皆さんもご存じのように、有害事象は治療と関係のない事象、例えば“虫歯になった”とか“風邪をひいた”なども有害事象であり、治療と関連する副作用ではありません。有害事象の中で、治療のため入院が要した等は重篤な有害事象とされ、報告義務があります。治験では、治験コーディネーターが書類作成や報告業務を担ってもらえますが、臨床試験は自分でしないといけません。院内の報告書を作成したり、厚労省へ報告したり、重篤な有害事象に対する対応として“独立データモニタリング委員会”を開いたりと田邉先生を始め、関係部署の方々に大変なご助力を頂きました。被験者は進行した癌患者さんで、何があってもおかしくない病状であり、臨床家としては、ある意味自然の成り行きと感じる部分もあります。しかし、臨床試験ではそれを予見して、被験者保護のもとに重篤な有害事象が発生する前に試験を打ち切った方が、結果的に試験がスムースに進むことがあると言うことです。個人的には第II相試験は有効性の検証なので、重篤な有害事象が起きなければ、PDを認めるまでは継続と思っていましたが、今回の件でその考えを少し変えた方が良いかもしれません。第I相や第II相試験で良い結果が出ても、第III相で新たな有害事象が多発して試験が早期中止になるといったことに関連しているのかもしれません。

また、数年前に東大医科研の膵癌ワクチン療法の臨床試験で発生した有害事象に対する不適切な対応(実際には不適切ではないと思いますが)を記事にした朝○新聞から情報開示請求が来て、この対応にも追われました。TVニュース等で、黒塗りをされた文書や報告書を見ることがありますが、まさか自分があの黒塗りをするとは思ってもみませんでした。

昨年はいろいろと考えることが多い年でした。早く保険診療としてこの免疫療法を患者さんに届けられるよう、引き続き安全に臨床試験を継続していきたいと思います。

小林 博人

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