東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 設立趣意書会則
東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 The Society of Urological Disease at Tokyo Women's Medical University
■ 2007年度年報
ホーム1.はじめに2.医局構成・新入局員紹介3.東京女子医科大学腎センター泌尿器科および関連病院入院・外来・手術統計4.東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2008年度の目標5.関連および協力施設 活動報告・2008年度の目標6.業績目録7.あとがき

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RCC研究 活動報告・2008年度の目標

はやいもので腎癌に対する免疫療法の臨床試験を始めてから4年が経過し、残すところ1年となりました。通称“γδ療法”は「結核菌抗原類縁体を利用した癌標的免疫療法の確立-γδ型T細胞の示す抗腫瘍作用の臨床応用-」という臨床試験です。平成16年に第3次対がん10カ年計画が出され、その新規事業として「文部科学省がんトランスレーショナル・リサーチ事業(革新的ながん治療法等の開発に向けた研究の推進)」(通称がんTR)が始まりました。文字通り基礎研究の成果を臨床へ向けての橋渡しの研究で、そのゴールは探索的研究の手法を用いたPOC(proof of concept)の獲得にあります。すなわち、基礎研究で得られた仮説をヒトに応用し、その仮説が正しいかどうかを探索的に明らかにするというものです。evidenceのある治療ではなく、evidenceを得るための試験と言えます。

この研究手法そのものは、既に欧米を中心として10年ほど前から取り入れられており成果を上げています。かつてモノクローナル抗体やTNFが一世を風靡して新聞紙上を賑わせ、日本人が発見し作ったものも多くありましたが、結局日本は何一つ上市することができませんでした。今となってはアメリカでFDAの認可がおりている抗体医薬品を輸入承認しているに過ぎません。そこで、その反省から日本でも遅ればせながらTRの手法を取り入れたという経緯があります。TRを進めていく上で欠かせないものが知財・製剤・臨床試験の3本柱です。知財はすなわち特許です。γδ型T細胞を増やす抗原は、既に日本・米国・欧州で国際特許が成立しております。特許には20年という有効期限が限られており、この研究を始めて既に10年が経過してしまっています。製剤はここでは“自己活性化γδ型T細胞浮遊液”であり、その製造・品質管理においては厚労省のICH-GCPという規制がかかっており、院内に無菌細胞調整室を設置しそこで製剤を調整しております。

臨床試験は、治験でいくのか非治験でいくのかで大きく方向性が異なりますが、私たちの研究では非治験で行っています。当初、高度先進医療という枠組みがあり、混合診療が認められていました。細胞療法は製剤の標準化が困難で治験でいくのにはハードルが高く、まず高度先進医療の承認を目指していました。しかし、高度先進医療が廃止され、先進医療に一本化されてしまいました。先進医療は保険収載を目指した枠組みであるため、ここでの細胞療法の承認はますます困難となってしまいました。途中でゴールの一つが無くなってしまうのは困ったことですが、国策では仕方がありません。まずは非治験で症例を重ねていくしかありません。韓国ではすでにがんに対するリンパ球療法が、KFDA(韓国のFDA)で承認され、リンパ球浮遊液が医薬品として認可されています。日本でもそんな日が来ると信じています。

臨床試験を正しく行うためには、なんと言っても日常臨床レベルが高くなければ試験そのものができません。その点女子医大は腎癌の治療においても症例数においても日本トップレベルで、本臨床試験を統括している先端医療振興財団からも高い評価を得ております。また、この臨床試験をすすめるには、医師のみではなく、輸血部、看護士や事務方の協力も必要です。この点に関しては、なんとかスムーズに行っており、大変感謝しております。γδ型T細胞を用いた免疫療法は、パイロットスタディーを平成15年に始めて、7症例の登録がありました。7人の内存命は1人だけですが、現在も普通に仕事をされております。現在がんTRの臨床試験にエントリーした人は11人います。CR1, PD1, NC5, 脱落3, 進行中1ですが、この10人の中間解析からいろいろと問題点も明らかになり、倫理委員会に通れば4月からは改変プロトコルで行けそうです。この柔軟性が、探索的研究の良いところです。

昨年はのべ91回のリンパ球採取、培養と患者さんへの投与を行いました。1回もコンタミネーションはなく、またリンパ球投与に関連した事故もなくできました。培養のほとんどは一人の技師さんが行っています。大学の卒業研究で抗体を作るハイブリドーマの培養経験があるだけでしたが、今では「これをフローサイトメーターでみてみたいんだけど」というと「この抗体とこの抗体がいいと思います」とアドバイスをしてくれるまでになりました。

ところで米国では2004年にFDAの声明で、トランスレーショナル・リサーチは既に研究手法として旧スタイルになって、クリティカルパス・リサーチという研究開発をさらにスピードアップした手法に移行することを明言しています。トランスレーショナル・リサーチが第I/II相試験であるのに対し、前臨床試験から承認申請までを一気に網羅するものです。海外承認-日本未承認であるが、ほぼ世界の標準治療となっている医薬品を「日本でも早く承認されないかな〜」などと言っている場合ではありません。iPSの山中伸弥先生が焦っている気持ちがわかります。がんTRでは当初10課題が進んでおりましたが、製剤の品質保証の問題や、製剤製造のコスト(人に用いる量を確保できるような蛋白製剤の製造には1ロット数億円!)の問題で臨床試験に入れなかった課題などもあり、現在は5課題となっています。何とかここまで残ってきたので、残り1年足らずですが無事臨床試験を完遂し、成果を還元したいと思います。
小林博人

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