東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 設立趣意書会則
東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 The Society of Urological Disease at Tokyo Women's Medical University
■ 2017年度年報
ホーム1.はじめに2.医局構成・新入局員紹介3.東京女子医科大学腎センター泌尿器科および関連病院入院・外来・手術統計4.東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2018年度の目標5.関連および協力施設 活動報告・2018年度の目標6.業績目録7.あとがき

4. 東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2018年度の目標 >> RCC研究

インターフェロンαが腎癌治療に承認されたのが1987年で、分子標的薬のソラフェニブが2008年1月に承認されるまで実に20年を要しましたが、2016年9月に免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブが承認されるまでには、9年弱です。しかし、私が京都大学の先生とγδ型T細胞療法の研究をしていた2002年頃には、「PD-1に対する抗体が癌の特効薬になるかもしれない」と聞いていました。その後は2006年から臨床開発が進み、今では癌免疫療法は標準治療の一つになったのはご存知の通りです。PD-1自体は1992年に当時京都大学の本庶研にいた石田靖雅先生(現・奈良先端科学技術大学院大学)が、自己非自己認識に関わる分子を見つけようとして、活性化したT細胞が細胞死するときに増強される遺伝子として同定しました。そのためProgrammed cell death 1と命名したそうですが、今となっては「なんとセンスのないネーミングをしてしまったのだろう」と後悔していると講演でおっしゃっていました。また、1998年にPD-1ノックアウトマウスを当時の大学院生(西村泰行先生 現・滋賀県立成人病センター研究所)が作成したときに、CTLA-4ノックアウトマウスは生後激しい炎症を起こしてすぐに死んでしまうのに対して、『生まれたマウスには、何も起こらず、すくすくと元気に育った』そうです。大学院生は「これでは学位が取れない!」と泣きがはいったそうですが、上司からは「もう少し経過を見ましょう」と言われたそうです(私の外来での常套句ですが)。そうしたら老齢になって様々な自己免疫疾患を引き起こすことがわかり無事学位が取れたそうです(Nishimura, Science, 2001、 Nishimura, Immunity, 1998など)。一つのブレークスルーが生まれるのには、さまざまな偶然もありますが、やはり継続することが大切と思いました。いまは、新たなI-0 drug(Immuno-Oncology drug)が開発されていますが、もうすでに次のブレークスルーとなる種か芽があるのかもしれません。癌免疫抑制機構の解除とエフェクター細胞の機能増強は、癌免疫療法の両輪です。I-O drugは抗原非特異的免疫療法ですが、癌免疫細胞療法はより抗原特異的な方向に向いてきています。昨年8月に、小児・若年者の急性リンパ性白血病に対して、ノバルティスが開発したCD19に対するキメラ抗原受容体を遺伝子導入したCAR-T細胞がFDAで承認されました。他の治療法が無効あるいは骨髄移植ができない患者に対して、83%の奏功率を示した製剤です。キムリアという製剤ですが、薬価が47万5千ドル(薬5200万円)です。効果がなければお金は取らないという通販のような話ですが、83%の患者さんに効果があるのですから、それも良いのでしょう。いまは、造血器腫瘍のみですが、固形癌にも有効なCAR-Tの開発も進んでいます。iPSから作った癌抗原特異的なT細胞療法もfirst in humanが近い様です。個別化医療としては、個々の患者さんの癌組織からネオアンチゲンを同定して、その抗原に反応するT細胞やペプチドワクチンを投与する方法も実用間近です。私はアブスコパル効果のように、自然免疫から獲得免疫へのスムースな移行が癌の免疫療法には重要であろうと考え、引き続きγδ型T細胞を用いた免疫療法の開発を進めて行きます。

小林博人


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