東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 設立趣意書会則
東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 The Society of Urological Disease at Tokyo Women's Medical University
■ 2014年度年報
ホーム1.はじめに2.医局構成・新入局員紹介3.東京女子医科大学腎センター泌尿器科および関連病院入院・外来・手術統計4.東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2015年度の目標5.関連および協力施設 活動報告・2015年度の目標6.業績目録7.あとがき

4. 東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2015年度の目標 >> 泌尿器癌免疫治療部門

泌尿器癌免疫治療部門 活動報告・2015年度の目標

約1世紀前に、William B. Coley博士により免疫によって癌が退縮することから腫瘍免疫の概念が確立し、1991年Thierry Boon博士により世界で初めて癌抗原が同定されるなどして腫瘍免疫は段階的に発展してきました。そして、昨今はご存知のように免疫チェックポイント分子(免疫抑制シグナルを入れる分子)阻害による腫瘍免疫増強がトピックスになっています。特に抗PD-1抗体については、2014年7月にニボルマブが承認され、9月に薬価収載され、世界に先駆けて日本で使えるようになりました(これは画期的なことです)。今の所適応は悪性黒色腫のみですが、早晩現在治験が進行中の腎癌や肺癌にも使えるようになるでしょう。悪性黒色腫では1回2mg/kgを3週間間隔で投与します。体重60kgの人では120mgになりますので、1回の薬価が880,049円となります。腎癌では3mg/kgを2週間間隔で投与しますので、体重60kgの人では180mgとなり、150万円ほどになります(300万円/月です!)。もちろん保険が使えるようになるでしょうから、薬価の差は圧縮されて悪性黒色腫の患者さんと腎癌の患者さんが窓口で支払う医療費の差は、7000円くらいになります(2015年1月1日から高額療養費が見直されていますが)。分子標的薬も高額ですが、ますます高額になってきました。

免疫チェクポイント阻害剤は、抗PD-1抗体以外にも、抗CTLA-4抗体はすでに薬になっていますし、抗PD-1L抗体や抗LAG-3抗体、抗TIM-3抗体なども臨床試験が行われております。これら以外にも新免疫チェクポイント分子も同定されつつあり、しばらく目が離せない状況です。これら、免疫チェックポイント分子の研究から、次の展開としては、T細胞の免疫疲弊の回復をどうするのかという問題がトピックスになりつつあります。T細胞免疫疲弊(T-cell exhaustion)の概念は、慢性ウイルス感染症によるウイルス抗原特異的な細胞障害性T細胞(CTL)の機能喪失により提唱されたものです。疲弊T細胞は、サイトカイン産生能が低下し、細胞表面には恒常的に免疫チェックポイント分子が発現しています。癌患者さんのT細胞もT細胞免疫疲弊に陥っており、免疫チェックポイント分子阻害により一時的に機能が回復しますが、極端に寿命の短いCTLになってしまいます。遺伝子的にPD-1を発現しないようにして、強力なCTLを作ろうとしても、もやはり短命なCTLができるようです。抗PD-1抗体薬の副作用の一つとしてリンパ球減少がありますが、T細胞が短命になった結果、リンパ球が減った可能性があります。その解決の一つのアプローチとして免疫チェックポイント分子阻害薬+体外で増やしたT細胞を用いた細胞療法の治療成績が非常に良いという話もあり、結果が楽しみです。新たなブレークスルーが新たな問題を生み、腫瘍免疫は奥が深いと改めて感じております。

自身のγδ型T細胞の免疫療法は、大学で腎癌患者さんに対しては、2015年1月から、先進医療と同額の自費で行えるようになりました。また、婦人科とは難治性腹水の卵巣癌患者に対して、腹腔内投与の臨床研究を行っています。その他に、血液内科とNK細胞療法の臨床試験を行っており、消化器外科とは肝癌のNK療法、肝移植の免疫寛容導入療法等の研究支援の準備もしております。今後の展開としては、再生軟骨で治験を開始した企業と、γδ型T細胞免疫療法の保険収載と普及を目指して共同開発を開始したところです。

昨年は科学研究の不正行為として、頭文字をとって3Cと言うそうですが、「ねつ造」「改ざん」「盗用」が騒がれました。PD-1の発見者でもある京都大学名誉教授の本庶佑先生が、研究に重要な3Cとして「Curiosity, Challenge and Continuation」を挙げております。今年度もこの3Cを実践していきます。

小林博人

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