東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 設立趣意書会則
東京女子医科大学泌尿器科 腎泌尿器癌研究会 The Society of Urological Disease at Tokyo Women's Medical University
■ 2010年度年報
ホーム1.はじめに2.医局構成・新入局員紹介3.東京女子医科大学腎センター泌尿器科および関連病院入院・外来・手術統計4.東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2011年度の目標5.関連および協力施設 活動報告・2011年度の目標6.業績目録7.あとがき

4. 東京女子医科大学泌尿器科学教室 活動報告・2011年度の目標 >> RCC研究

RCC研究 活動報告・2011年度の目標

γδ型T細胞を用いた免疫療法の開発も、平成16年から本格的に始めて、はや7年目になります。開発当初は微生物・免疫学教室の細胞培養器を借りて、家内制手工業的に臨床の傍らにやっておりましたが、今は治験薬GMPに準拠したセルプロセシングセンターを整備して、田邉先生のご高配により泌尿器癌免疫治療部門として、実用化を目指しております。2010年の大きな変化は、腎癌に対するγδ型T細胞を用いた免疫療法が日本で初めて第3項先進医療(高度医療評価制度)に承認されたことにあります。官報の載っている正式な名称は「転移又は再発の腎細胞がんに対するピロリン酸モノエステル誘導γδ型T細胞及び含窒素ボスホスホン酸を用いた免疫療法」というものです。

高度医療とは「薬事法の承認等が得られていない医薬品・医療機器の使用を伴う先進的な医療技術については、一般的な治療法ではないなどの理由から原則として保険との併用が認められていないが、医学医療の高度化やこれらの医療技術を安全かつ低い負担で受けたいという患者ニーズ等に対応するため、今般、これらの医療技術のうち、一定の要件の下に行われるものについて、先進医療の一類型として保険診療との併用を認め、薬事法による申請等に繋がる科学的評価可能なデータ収集の迅速化を図ることを目的として、高度医療評価制度を創設することとする」というものです。俗にいう混合診療を許可するということです。この申請承認はなかなかにタフな仕事でした。

高度医療は、厚生労働省(厚労省)の医政局研究会開発振興課が担当しています。まず、申請書一式と必要な資料を準備します。先進医療なので申請者は病院長です。厚労省に電話をして事前相談の予約をして、先方の指定した日時に厚労省に出向き、担当の医系技官に治療の意義や目的等等を説明します。高度医療は最終的には薬事承認に繋げるのが目的なので、治療の内容のみではなく、どのようにして薬事承認に持って行くのかについて、10年後のビジョンまで具体的に説明を求められます。ここで1回目の事前相談は撃沈です。担当官がいろいろとアドバイスをしてくれますが、3月に行った3回目の事前相談で、ようやく5月の高度医療評価会議にかけてもらえる事になりました。構成員の先生方は、公表されていますが偉い方々です。構成員に申請資料が回ると、質問事項が直接私のところではなく、担当官にいきます。そこで質問がまとめられ、だいたい夕方5時過ぎに私のところにメールが来ます。「構成員の先生から疑義照会や質問があります。明日の朝までに解答をお願いします」。これらの質問がもちろん簡単に答えられるものではなく、すぐに文献を検索して理論武装して、夜なべして解答を作って翌朝担当官に送ります。そうするとまた夕方にメールが来て、「明日の朝までにお願いします」とお願いされます。このようなやり取りが1ヶ月くらい続きます。そして会議になりますが、ここでは傍聴しかできません。「そういう意味じゃないんだけど」と思いながら聞いていると、「試験体制とプロトコルに検討の余地がある」ということで撃沈です。ちょうど2010年4月に臨床試験の指針が大きく変わって、今までは整備目標でしたが、この時点で細胞加工施設のGMP準拠が必要となっていたので、間に合わなかったところがやはり指摘されました。その後1ヶ月かけてGMP準拠の整備をしました。そしてプロトコルを検討して、8月に再度会議にかけてもらえる事になりました。そうするとまた構成員の先生から質問が来て、また「朝までにお願いします」とお願いされる日々が1ヶ月くらい続きます。私はこの間に夏期研修をとっていましたが、ホテルのインターネットコーナーで夜な夜な働いていました。その甲斐も合って、8月の会議で無事承認となりました。実はこの時の審議事項は、これだけで、この審議のために偉い先生方が全国から招請されていて、ビックリすると共に厚労省の本気度も解りました。会議上で専門家の立場から、前昭和大学泌尿器科教授の吉田英機先生が、この治療の意義を弁護していただき、ちょっとうれしかったです。その日のうちにはyahoo!などのインターネットニュースに「腎癌の新しい免疫療法が高度医療で承認される」となっていてちょっと驚きました。その後、先進医療専門家会議で審議され承認されると、今度は中央社会保険医療協議会でさらに審議され承認となります。ここでようやく31番目の第3項先進医療として承認しましたという手紙が、病院長宛に厚生労働大臣から届くことになりますが、実はようやくスタートラインに立てたというのが実感です。自分にとって医療行政は全くの別世界で大変でしたが、貴重な経験が出来ました。何とかして試験を無事遂行して、γδ型T細胞の免疫療法の実用化を目指したいと思います。今後ともご協力よろしくお願いいたします。

小林 博人

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