この2月をもちまして、一研を閉じることとなりました。維持費がかさむ割に、ここ数年は、利用頻度が極めて低かったため、ごく自然な成り行きと思われます。私も、透析腎癌のDNA polymorphismの研究を行なっておりましたが、一研は実際のところ、保管庫となり、必要な備品は第一病理や微生物など基礎の教室から借りておりました。
もともと、一研では主に腫瘍疾患の基礎研究と資料の保管を行なってきました。しかし、基礎研究には、費用だけでなく、大変に時間と労力がかかります。一般臨床と掛け持ちで行なうことは難しく、恐らくどこの大学でも、主力は大学院生が担っているものと考えます。いずれ大学院生として、癌の研究でもしようかなという人がでてくることを期待したいと思いますが、現時点では費用、マンパワーの両面で、維持は困難と考えられます。
また、資料−主に摘出標本−に関しても、数年前までは、ほぼ全例について、血清とともに凍結保存してきました。しかし、液体窒素に保存するにせよ、マイナス80℃のディープフリーザーに保存するにせよ、すぐに保管スペースが一杯になってしまうのが現状です。液体窒素は毎週、補充が必要で相当に維持費がかさみます。そこで、ここ数年は、それまで液体窒素に保存した標本に関しては、できる限り、DNA、cDNA、蛋白に精製あるいは置換して保存してあります。しかし、wholeの組織では、腫瘍組織における正常組織の混入が、結果の解釈に影響をもたらすとの批判も最近はあり、これらの検体が果たしてこれまで通り利用できるかどうか難しい面もあるかと思われます。
最近の中村英二郎氏(京大)の発表を聞いて驚いたのは、その内容も去ることながら、京大ではVHL病家系の亜型の副腎褐色細胞腫という特殊な検体を迅速に調達できたことです。それだけの体制を綿々と構築してきたものと思われます。
癌の基礎研究は、多岐にわたっており、何がbreakthroughになるか想像もできません。また、技術の進歩は早く、少しでも分野が異なると何をやっているのか理解のできないこともしばしばあります。さらに、基礎研究には、手段となる機器が必要で、それをすべて自ら調達することは困難です。しかし、我々臨床家には、基礎研究者にはない、臨床検体を押さえているという強みもあります。若手の諸君も何かに興味を抱いたら、この強みを生かして、是非ともその分野の一流と言われている研究者に直接ぶつかってみてください。 |